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ミツバチと共に90年――

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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

優しいまなざし

江国 ちはる

 

 蜂を見たら逃げるか退治しようとするのは、人間の習性だと思っていた。
何年か前、お彼岸に母を連れて母方の祖父母のお墓参りをした。その帰り、母より3歳下の叔母の家に寄った。1年ぶりの再会に会話が弾む。庭に出て車に乗ろうとすると、ブロック塀の上に蜂が止まっていた。
 「かわいい。日向ぼっこかな」と笑顔で触れようとする叔母を見て私は驚いて、「刺されないの」と聞いた。「大丈夫、この子はミツバチだから。お母ちゃんと一緒にミツバチを育てるのは楽しかったなあ。春はレンゲ畑、夏はヒマワリ畑、いろんなお花畑をまわったよ」
 車に乗り込むと、母は祖父母のことを話し始めた。愛媛の山あいに住んでいた祖父母は蜂を飼っていた。1男、5女を育てるには、農業だけでは生活できないからだ。祖母は小さい体で重たい一斗缶のハチミツを自転車に積んで、毎日のように売っていたそうだ。
 「5人の娘の嫁入り支度をするのは大変だったから」と母は涙ぐんだ。
 「お母ちゃん、娘は私ひとりで良かったなあ」と私が言うと、
 「ほんまや。5人もいたら破産しとる」と笑った。
 母にとってミツバチは祖父母の苦労がよみがえるつらい思い出でも、叔母にとっては楽しい思い出なのだ。祖母は小柄で丸顔、よく笑う人だった。叔母の笑顔は祖母によく似ている。母の身長は163センチある。昭和初期の生まれの人にしては大柄だ。お腹が空いたら柿の木に登って柿を食べ、ハチミツをなめていたという。がっちりとした母の体格はハチミツのお陰かもしれない。
 去年の夏は猛暑で、私は庭仕事や畑仕事をする気力がなかった。ある日、籐で編んだ庭仕事の道具を入れた収納棚のすき間から、小さな蜂が出入りしているのを見つけた。引き出しを開けると、10センチぐらいの蜂の巣がぶら下がり、ブンブンと蜂が飛んでいる。静かに閉めて、夫に何とかしてと訴えた。
 「寒くなったらそのうちいなくなる。そのままでいい」と言う。生き物が好きな夫は家の中にクモがいても、
 「クモは害虫を食べてくれる益虫だから、何もしなくてもいい」と退治しない。ミツバチは花の受粉を助けてくれ、おいしいハチミツを作る益虫の仲間だ。私は収納棚の物をそっと物置に移動して秋まで待った。
 霜が降りる頃にゆっくりと引き出しを開けると蜂はいなくなり底に何匹か転がっていた。女王バチはもっと住み心地のいい場所を見つけ、新しい巣を作っているのかもしれない。

 

(完)

 

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